クローン家畜は食品として安全か?
体細胞クローン家畜とは何か?
成功率は10%以下で、死産率、出産直後の死亡率が高い
市場化進めるアメリカ、慎重なEU
妊娠中に9割が死亡し、死産や生後直後の死亡率は普通の牛の5倍も多い。しかし200日以上生き残った牛は、その後健常に育つ。その肉は普通の牛に比べても栄養成分などは同等だから安全。
食品安全委員会の作業部会が、2009年1月6日、体細胞クローン技術を用いた牛および豚ならびにその後代(子孫のこと)の食品の評価案をまとめた要旨だ。
あなたは、そのように説明されて体細胞クローンの牛肉を食べたいと思うだろうか?
体細胞クローン家畜とは何か?
世界ではじめて体細胞を使ったクローン動物の誕生に成功したのが1997年にイギリスで生まれた羊「ドリー」だ。日本ではその2年後に石川畜産総合センターで、世界ではじめての体細胞クローン牛が生産された。その後クローン家畜の普及は進み、国内では、独立行政法人や都道府県の畜産試験場、大学などの46の研究機関が試験用に生産している。2008年9月末段階では、牛では557頭が誕生している。ちなみに豚は、8機関で335頭が生まれている。
そもそも、体細胞クローン家畜とはどのようなものなのだろうか?
クローン技術とは、同じ遺伝子を持った動物をコピーして大量に生み出す技術だ。
クローン技術には、受精卵クローンと体細胞クローンの2種類がある。受精卵クローンとは、雄牛の精子と雌牛の卵子を受精させた胚を利用したもの。胚がある程度分裂した段階で、それぞれの細胞をバラバラにして、別の未受精卵移植してクローンを作る。
子どもは父親と母親の遺伝子を半分ずつ受け継いでいるのは従来の繁殖法と同じだが、同じ受精卵から生まれた兄弟はすべて同一の遺伝子を持っている。一卵性双生児を人工的に作り出すといった感じだ。細胞分裂がある程度進んだ胚ではクローンは生成できないため、産出できるクローンの数には限界がある。受精卵クローンは、すでに実用化されている。
これから食用に許可されようとしている体細胞クローン技術とは、皮膚や筋肉などの体の一部の細胞を使って、親とまったく同じ遺伝子をもった子どもを作る技術のこと。数に限りがある受精卵のクローンと違い、体細胞を使うことで、技術的には無数にクローンを作ることが可能となる。
体細胞クローン技術で家畜を生産することにどのような意味があるのだろうか?
食料の問題に関しては、肉質が良いとか乳量が多いといった優れた性質をもった牛を、大量に生産できる可能性が広がる点が指摘されている。
食品安全委員会の評価書案が出された3日後の2009年1月9日に、朝日新聞の記事では、近畿大学と岐阜県畜産研究所の共同研究で93年9月に老衰で死亡した飛騨牛ブランドの元祖の種雄牛「安福号」の冷凍保存されていた体細胞から、クローン牛の誕生に成功したと報じられた。
安福号という種牛は、当時後発ブランドだった飛騨牛を全国有数のブランドに押し上げた功労者。さしの入り方が優れており、人工授精用に安福号の精子は高値で取引され、その経済効果は岐阜県だけで100億円以上になったと言われている。現在では、飛騨牛にとどまらず全国の代表的な和牛の品種である黒毛和種の牛68万頭のうち、3割は安福の血を引いていると指摘されている。
冷凍保存されていた精巣細胞を利用してクローン牛をつくることで、技術上無数に安福号と同じ遺伝子を持った牛を作ることができる。
ただ、岐阜県畜産研究所では、現在の段階では、安福クローン牛を種牛として食肉生産することは計画していないという。
食用利用のほかにも、絶滅の危険性のある希少動物の保護や再生に利用できる可能性が指摘されている。また死亡後冷凍保存されている体細胞からクローンの生産に成功したことで、マンモスなどすでに絶滅した動物の復活の可能性なども指摘されている。
食品安全委員会の評価書では、体細胞クローン技術は、人工授精や体外受精、受精卵クローンなどの従来の繁殖技術の延長線上にでてきた技術だと位置づけている。
しかし、従来の生殖技術と決定的に違う点がある。それは精子と卵子による受精というプロセスを経ないで生命を誕生させるという点だ。哺乳類動物の場合、自然界では決して起こらないことなのだ。
体細胞を使ったクローンには技術的な問題も残っている。
牛や豚など哺乳動物の体を構成する細胞は、筋肉や脂肪、脳や皮膚細胞など200種類に分類される。それぞれの細胞は同じ遺伝子を持っているが、それぞれの組織では必要な遺伝子だけが働くように調整されている。その調整が適切に行なわれることで、一個の細胞である受精卵から分裂して体の各組織が作られていき、まさに目は目に、歯は歯になるわけだ。目の細胞の中には歯の細胞になるための遺伝子は含まれるが決して働きを起こすことはない。
いったん分化した体細胞を、胚細胞として使うためには、そうした遺伝子の調整をリセットして初期化するプロセスが必要となるがその技術はまだ完全にはできていない。
体細胞クローン動物に死産や異常が多い原因のひとつには、この初期化の不完全さが指摘されているわけだ。
成功率は10%以下で、死産率、出産直後の死亡率が高い
具体的にはどのくらいの成功率なのかというと、仮親へ体細胞を移植した胚から、無事に子牛が生まれてくる割合は9%程度だという。豚の場合5%程度という報告もある。
多くは、親のおなかの中で、途中まで育った段階で死んでしまう。無事出産してもその直後の死亡率も高い。また、腎臓や後肢などの奇形を伴った牛も報告されている。また外見上問題がなくても生後6ヶ月くらいまでは、死亡率が高い。
これらの問題点は、安全性評価書でも指摘されている。
しかし牛の場合200日を越えると死亡率は通常の牛と同じ程度になる。つまりそこまで無事に生き残れば、後は大丈夫と判断できるというわけだ。
家畜の身になってみれば、体細胞クローン技術は非常にリスクの高いものであることは明白だ。また仮腹を貸すことになる雌牛にっとっても流産・死産に伴い死亡するケースも多くリスクが高いといえる。
しかしクローン牛を食品として利用する場合のリスクは別だというのが食品安全委員会の理論となっている。
クローン家畜の肉や乳については、従来の繁殖技術でうまれた家畜のものと比べて栄養成分などに差はなく、ラットなどに動物に食べさせた実験でも、差がないということで安全だと判断されているのだ。
また、死亡率が高い生後200日までの子牛は食用に適さないと判断しているかというとそうでもない。そもそも普通の繁殖法で生まれた牛であってもトチク段階の検査で、病気の牛は食肉に回らないように処理される仕組みになっている。クローン牛で異常が多くても、トチク検査で異常が分かればはじかれるので、食肉には回ることはないという理屈だ。
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